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大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)36号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1の事実のうち、(一)の事実、(二)のうち元己南に愛人ができたこと及び金癸賢の入国が姉金長命を頼つてであることを除く事実、(三)のうち元己南の死亡時期、長姉の入国時期、原告が姉二人によつて養育されていたこと及び姉二人の入国が母を慕つてであることを除く事実、(四)のうち原告が父方の遠戚に引取られ、国民学校も五年で中退し、子守り等家事手伝いをしていたこと、(五)のうち原告が昭和三九年九月二六日ころ(原告が一三才のとき)、本邦に不法入国したこと、(八)のうち原告が入国後次姉の夫の経営するプラスチツク加工場や金田京鐘のプラスチツク工場で働き、昭和四七年には母とともにプラスチツク加工業(丸元樹脂工業所)を始めたこと並びに(九)のうち原告が昭和五〇年四月黄福子と内縁関係に入り、同五一年八月三〇日長男元一勲が出生したことは当事者間に争いがない。同2の事実も当事者間に争いがない。

二そこで、本件裁決が違法かどうかについて検討する。

1 外国人の入国及び滞在の許否は当該国家が自由に決し得る事柄であること及び管理令五〇条一項の規定から明らかなように特在許可は本来管理令二四条の退去強制事由に該当する外国人に対する例外的措置として定められたものであることからすると、管理令五〇条一項が一、二号においてある程度具体的な要件を定めるだけで、三号において「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。」と概括的に定めているのは、法務大臣に異議申出人の個人的事情のみならずその時々の国際情勢、外交政策等一切の事情を斟酌して特材許可の許否を決定させようとする趣旨であり、したがつて、特在許可の許否の判断は被告大臣の裁量に委ねられており、その範囲は極めて広いものといわなければならない。

2 被告らは、被告大臣の裁決は容疑者が管理令二四条各号に該当するか否かについてのみ判断する覊束処分であり、また特在許可の許否の違法を理由に被告大臣の裁決の取消しを求めることはできない旨主張するけれども、管理令四九条一項による異議の申出に対する被告大臣の裁決は、一面で特別審理官によつて維持された入国審査官の認定の当否を審理するものであるが、他面で異議を棄却した裁決は特在許可を与えない処分としての性質を有するから、被告大臣の特在許可の許否の裁量に後記4(一)記載の違法がある場合は、異議の申出を棄却した裁決は違法となると解すべきである。したがつて、この点についての被告らの主張は失当である。

3 原告は、特在許可の許否は予め明確な許否の基準を定立し、その基準にしたがつて判断されなければならない旨主張するけれども、前記1に判示のとおり被告大臣の裁量の範囲が極めて広く、しかも被告大臣が考慮すべき異議申出人の個人的事情は多岐にわたり千差万別であり、国際情勢、外交政策等の客観的事情も時々の情勢に応じて変転するものと認められることに照らすと、予め特在許可の許否の基準を設定しなければならない理由はなく(また、基準を設定すること自体極めて困難でもある)、したがつて、予め判断基準を定立していないことが違法三一条に違反し、ひいては裁量権の濫用にあたるものとは解せられない。この点に関する原告の主張は失当である。

4(一) 前記1記載の特在許可の趣旨、性質に照らすと、管理令四九条一項による異議の申出を棄却した被告大臣の裁決は、特在許可の許否の裁量が著しく人道に反し又は正義にもとる場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はそれを濫用したものとして違法となると解すべきである。

(二) そこで、これを本件についてみると、前記の当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 原告は、昭和二六年五月一四日韓国済州道において韓国籍を有する父元己南、母金癸賢の長男として出生した。母金癸賢は戦前二年間ほど日本に居住していたことがあるが、昭和八、九年ころに朝鮮に帰り、右元己南と結婚したものである。

(2) 母金癸賢(大正二年八月一〇日生)は、夫元己南に愛人ができたため、昭和二七年三月ころ原告ら三人の子を夫の許に残したまま、戦前から日本に在留していた姉金長明を頼つて日本に不法入国し、本邦入国後特在許可を付与され、さらに昭和四六年に管理令四条一項一四号の在留資格を取得した。

(3) 父元己南は昭和三三年三月一五日に死亡し、原告は、姉二人とは別に、父方の遠戚元君下に引取られたが、まもなく長姉元順徳は母を慕つて日本に不法入国し、次姉元徳化も昭和三四年に同様に日本に不法入国した。姉二人はその後特在許可を付与された。

(4) 原告は元君下のもとで国民学校に通つていたが、子守り等家事手伝いのために右学校を五年で中退し、昭和三八年日本に行きたいとの気持で右元君下方を出て、釜山で靴みがきをしながら生活していた。

(5) 原告は、昭和三九年九月二六日ころ、原告の境遇を知つた船員の好意により、母や姉らを頼つて日本に不法入国した。このとき原告は一三才であつた。

(6) 原告は、入国後、次姉方で生活しながら次姉の夫の経営するプラスチツク加工場で働き、その後父方の遠戚の金田京鐘経営のプラスチツク加工工場で働き、昭和四七年から母とともにプラスチツク加工業(丸元樹脂工業所)を営み、原告が主として営業等の仕事を行い、資産として加工機及び成型機(約八〇〇万円相当)を所有していた。

(7) 原告は、昭和四九年黄福子と知り合い、昭和五〇年四月に同女と内縁関係に入り、同五一年二月一六日婚姻の届出をし、同年八月三〇日には長男元一勲が出生した。黄福子は、昭和四六年一〇月ころ、稼働目的で日本に不法入国したものであり、同女の両親及び五人の兄弟は韓国に居住している。また黄福子、元一勲とも現に退去強制令書の発付をうけているが、該発付処分の取消訴訟は提起していない。

(8) 原告は、昭和五二年一〇月仮放免の許可を受けたのち、ヘツプ加工工場等に勤め、現在は化学薬品製造の株式会社ワールドユニオンに工場長として勤務している。

(9)原告は、現在も前頭部の異常のために通院し、注射や検査を受けており、細かい仕事には差支えがある。

(10) 母金癸賢は内職で月七万円ほどの収入を得、原告から三万円ほどの援助を受けながら、長姉元順徳方の近所に一人で住んでいる。原告は現在母と別居しているが、妻子とともに毎日のように母を訪れ、母方に泊ることもしばしばである。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 右認定の事実によると、原告はわずか一三才の時に日本に在留している母及び姉二人を頼つて日本に入国したものであり、原告の母も現在かなりの高齢に達していること、原告の在日歴もすでに一五年に及んでいることが認められるけれども、原告は稼働目的で日本に不法入国した黄福子と婚姻し、同女との間に長男元一勲をもうけているものであつて、すでに退去強制令書を発付され早晩韓国に送還される運命にある右妻子をだれよりも扶養すべき地位にあること、日本には原告の姉二人が在留しており、原告が韓国に送還されても原告の母の扶養、世話にあたることができ、原告の母が原告からの扶養を望むのであれば、自ら韓国に帰国し、原告の扶養を受けることはもちろん可能であること、原告は前頭部の異常のために現在通院しているが、韓国において生活を営んでいくうえでかなりの支障になるほどのものとは認められないこと及び原告は、本邦居住中長年プラスチツク加工や化学薬品製造の仕事に携わり、その技術を生かして韓国において生活を維持していくことが可能であることに照らすと、本件裁決が著しく人道に反し又は正義にもとるものとは認められないところである。

5 原告は、日本にいる親を頼つて不法入国した子に対し特在許可を付与することが確固とした行政先例になつており、本件裁決は平等原則に違反する旨主張するので、この点について判断するに、請求原因3(三)(2)の事実(特在許可の付与状況、原告の姉二人、朴英植に特在許可が付与されたこと)は当事者間に争いがなく、同3(三)(1)の事実(「外国人の出入国に関する小委員会」の決議)は被告らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、<証拠>によると、被告大臣は本件のような近親者を頼つて不法入国してきた事例についての裁決に際し、不法入国時の年令、不法入国以前の在日歴の有無、不法入国後の在日歴、生活基盤、近親者との身分関係の程度、近親者の在留資格の種類、在韓親族の有無等の事情を総合的に考慮して特在許可の許否を判断していること、昭和四〇年六月二二日の石井法務大臣の声明の趣旨を生かし、戦前から日本に住んでいた家族が戦中戦後の混乱の時期に朝鮮と日本に離れ離れになつたために日本に不法入国した事例(いわゆる離散家族)についてはかなりの数の特在許可を付与していることが認められ、以上の事実とりわけ原告の姉二人に特在許可が付与されたことからすると、日本にいる親を頼つて不法入国した子に対しては特在許可を付与する取扱いがなされることが多いことは一応推認できるところである。しかし、仮に原告主張の行政先例が存在するとしても、右行政先例は本件のように出稼ぎ目的で不法入国し、韓国に送還された運命にある者と婚姻した異議申出人に対しても必ず適用されなければならないものとは認められず、原告が出稼ぎ目的で不法入国した黄福子と婚姻し、一家をかまえていることは前記4(二)認定のとおりであるから、原告に対し右行政先例の適用がなかつたとしても直ちに平等原則に違反するものとは認められないところである(ちなみに、<証拠>によると、朴英植は、特在許可を受けた当時独身であり、証人金癸賢の証言によると、長姉元順徳は日本への密入国の船中で捕まつたこと、次姉元徳化は日本への入国後まもなく捕まつたことがそれぞれ認められ、朴英植、原告の姉らが特在許可を付与された当時、在留資格を有しない者と結婚していたとの事情はなく、原告と事情を異にすることは明らかである。)。したがつて、平等原則違反をいう原告の主張は失当である。

6 なお、原告主張の人権に関する世界宣言、国際人権規約、赤十字国際会議の決議、日本国憲法前文に照らしても、前叙4(二)の各認定事実のもとにおいては、本件裁決が著しく人道に反し又は正義にもとるものとは認めがたい。

三そうすると、本件裁決には何ら違法はなく、したがつてこれに基づいてなされた本件発付処分もまた適法である。

(荻田健治郎 寺崎次郎 市川正巳)

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